日本人女性初のPh.D. 取得者 原口鶴子による先駆的な研究とは?

執筆者:竹内龍人( 教員ページへ
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日本女子大学の大先輩である原口鶴子さんをご存知でしょうか。日本女子大学校を第3回生として卒業後、1907年に単身でアメリカへ留学しました。そこで実験心理学の研究に励み、名門コロンビア大学で日本人女性としてあらゆる学術分野で初となるPh.D.(博士号)を取得するという偉業を成し遂げました。こうした彼女の歩みは、以前の「心理学コラム」で紹介されています。

さらに近年の研究からは、彼女が心理学分野において白人以外の女性(women of color)として世界初のPh.D.取得者であることも判明しており、先駆者としての活躍が改めて注目されています。

では、原口さんはどのような研究を行ったのでしょうか。前述のコラムには、「その後、わが国では彼女の研究主題や博士論文、新たな研究構想などが関心を持たれることはなく、心理学界の表舞台から姿を消した」と記されています。この指摘は確かに日本国内の状況には当てはまりますが、海外に目を向けると状況は全く異なるのです。研究の評価基準の一つに「他の研究者の論文にどれほど引用されているか」という指標がありますが、彼女のPh.D.論文(旧姓の「新井つる」名義でコロンビア大学から出版)は、100年以上経った現在に至るまで海外の様々な研究論文に引用され続けています。自身の研究が100年後も引用されるような研究者はきわめて稀です。原口さんは「初のPh.D.取得者」という称号に加え、こうした数少ない「優れた研究者」としても高い評価を得ているといえるでしょう。

彼女が取り組んだ研究テーマは「心的疲労」です。これは過度な精神活動によって生じる不快な状態で、集中力や持続的注意力を要する認知的な作業能力の低下として定義されています。なぜ困難な精神的作業を続けると疲労が生じるのか、その理由は未だに解明されていません。この謎に立ち向かうべく、彼女は12時間連続で4桁の掛け算を暗算で行い、心的疲労を引き起こさせるという過酷な実験を遂行しました。こうした研究内容やその現代的な意義については、私たちが最近の論文でまとめましたので、興味のある方はぜひ参考にしてください。

竹内・橋本・本間・吉本 (2026) 原口鶴子(Tsuru Arai)による心的疲労の研究~日本人女性初のPh.D. 取得者による先駆的な実験の分析~. 日本女子大学紀要 人間社会学部・国際文化学部, 36, 31-49.

この論文では、原口さんが計測したデータをまとめ、現代的な統計手法で再分析しました。図はその一例です。こうした検討の結果、原口さんの研究にはさまざまな新しい発見が含まれていることが再確認され、現代における心的疲労研究の確固たる土台となっていることが確認できたのです。

これほどの能力を発揮した原口さんでしたが、帰国後は二人の子供を育てながら、研究と家庭生活を両輪として進めていた最中、29歳の若さで結核により亡くなりました。彼女が心血を注いだ研究成果は、現在も以下の資料から読み解くことができます。