音による食感の錯覚②

執筆者:藤崎和香
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さまざまな介護食 © 2016 Photo by W.Fujisaki

(①の続き)

咬筋の筋電波形を音に変える

Endo, Ino & Fujisaki(2016)はこの問題を克服して、咀嚼に完全に同期したフィードバック音を、介護食のようにやわらかくて音がしない食品についても返すことができる画期的な方法を考案しました。それは咀嚼音そのものではなく咀嚼時の「咬筋」の筋電波形を音に変換したものをフィードバックするという方法です。

咬筋とは発話では使わず、噛むときにのみ使う筋肉です。自分の顔の、ちょうど上の写真のピンクの丸が示すあたりを触りながら噛み締める動作をしていただくと、噛み締めた時にぽこっと筋肉が出てくるのが感じられると思います。それが咬筋です。

筋電は電気の波であることから音として聴くことができ、咬筋の上に電極を貼って筋電計測しながら筋電波形を音としてフィードバックすると、自分が噛んだときにだけ音がするようになります。

この手法は、自分自身の咬筋の筋電をそのまま利用しているため、自分自身の咀嚼動作と完全に同期した疑似咀嚼音をフィードバックすることができ、噛みはじめ、噛み終わり、噛み締め強度にも同期させることができます。

咀嚼筋電音フィードバックで介護食の食感が向上

Endo, Ino & Fujisaki(2016)は、健康な成人を実験参加者として咀嚼筋電音フィードバックを聴きながら介護食を食べてもらう実験を行いました。その結果、咀嚼筋電音をフィードバックすることによって、介護食の「噛みごたえ」や「ざらざら感」などの食感が変わったほか、「食べる喜び」や「食べている実感」が向上することが示されました。

また全体的な傾向として、咀嚼筋電音フィードバックの効果は、「噛みごたえ」のような機械特性に由来する感覚や、「食べることへの心理的満足度」において大きくなることが示されました。

このような音による食感の錯覚は、介護食の食感を改善して食の喜びを拡げるだけでなく、ダイエットや健康増進、新しい食体験を楽しむエンターテイメントとしてもさまざまな展開が期待されます。