アタッチメント(愛着)とは

執筆者:塩崎 尚美( 教員ページへ
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アタッチメントは密着すること?依存すること?

親子関係に関する心理学の理論に、アタッチメント(愛着)理論があります。日本では「愛着」と訳されることも多いのですが、「愛着」という言葉は「愛情」という意味と同義のように捉えられ、本来のアタッチメント理論の意味とは異なる理解をされる可能性がある(数井・遠藤, 2005)ことから、心理学ではアタッチメントという表現を使うことが多いです。

アタッチメント理論は、Bowlby, J.が提唱した概念です。Bowlby(1969)は「危機に直面したり、恐れや不安の情動が強く喚起されたときに、特定の対象に接近して、安心感を回復・維持しようとする行動」のことをアタッチメント行動と名づけました。アタッチメント理論とは、子どもが不安になったときに、自ら養育者に近づき、養育者によって不安が和らげられると、子どもは再び探索に向かうという流れ全体を指す理論であって、養育者が子どもを全面的に受け入れたり、密着することを意味しているのではありません。

子どもにとって、母親のようなアタッチメント対象は、不安な時に逃げ込み保護を求める「安全な避難所」であると同時に、その不安が落ち着くと、そこを拠点に外に出ていくための「安心の基地」として機能します(遠藤, 2021)。Bowlbyは、アタッチメントは依存とは異なり、不安や危機的な状況において、不安を和らげるために子どもが自発的に行動を起こすことであり、不安が和らげば、子どもはその対象から離れ、探索行動に移ることができるという点を強調しています。

アタッチメントのタイプ

Bowlbyと共同研究者であったAinsworthは、乳児のアタッチメントはその特徴によって、<回避型>、<安定型>、<アンヴィバレント型>に分けられることを見出しました。<回避型>は、養育者との間に常に距離置いているタイプ、<安定型>は、養育者との分離には混乱を示しますが、養育者と再会するとすぐに落ち着き、養育者を歓迎するタイプ、<アンヴィバレント型>は養育者との分離の際に激しい苦痛を示し、再会後もその気持ちが長引いて、養育者に怒りや抵抗を示すタイプです。後にこの3分類に収まらない<無秩序、無方向型>というタイプが付け加えられました。

アタッチメントは変化する?

Bowlbyは、アタッチメント理論を単なる乳幼児期の母子関係の理論ではなく、乳幼児期のアタッチメント行動のあり方が、その後のパーソナリティの発達や精神病理的過程にどのように影響するのかを検証するためのものであると考えていました。そして、その後多くの研究者によって、世界各国でアタッチメント理論に関する研究が発展しています。

成人のアタッチメントタイプと乳幼児期のアタッチメントタイプとの関連についての研究によると、おおむね64%77%の一致率が見いだされていますが、それは乳幼児期のアタッチメントは、30%程度は変わる可能性があるということでもあります(遠藤, 2007)。それでは、どのような要因によってアタッチメントは変化するのでしょうか。Crowell et al. (2002) は、結婚3か月前と結婚18か月後のアタッチメントの連続性を検討したところ、78%は連続している、つまり22%は変化していることを見出しています。変化が認められたケースは不安定型から安定型への移行を示しており、結婚をすることで、養育者などとは異質の他者との新たな関係性を構築することで、アタッチメントの質を変化させる可能性が示されているのです。

乳幼児期に養育者との間で不安定なアタッチメントを持つことになっても、その後別の対象との関係を通して、アタッチメントが変化する可能性が見いだされたことは、アタッチメント理論を基盤としたカウンセリングなどの臨床実践の発展につながっています。虐待を経験した子どもの支援や、関係に何らかの課題を抱える親子への支援が様々な場所で行われるようになっています(数井・遠藤, 2007)。

Bowlby,J.(1969/1982). Attachment and Loss Vol.1 Attachment. (黒田実郎・大羽 蓁・岡田洋子・黒田聖一訳(1976). 『母子関係の理論Ⅰ:愛着行動』岩崎学術出版社)

Crowell,J.A., Treboux, D., Gao,Y., Fyffe, C., Pan, H., & Waters, E.(2002). Assessing secure base behavior in adulthood: Development of measure, links to adult attachment representations and relations to couples’ communication and reports of relationships. Developmental Psychology, 38, 679-693.  

遠藤利彦(編)(2021)『入門 アタッチメント理論:臨床・実践への架け橋』日本評論社.

数井みゆき・遠藤利彦(編著)(2005)『アタッチメント:生涯にわたる絆』ミネルヴァ書房.

数井みゆき・遠藤利彦(編著)『アタッチメントと臨床領域』ミネルヴァ書房.