Let's 筋トレ!

執筆者:小宮山 春美( 教員ページへ
画像1.png
©Harumi Komiyama

皆さん、筋力トレーニング(筋トレ)をしていますか?

昨年、厚生労働省が「健康づくりのための身体活動・運動ガイド」を改訂し、週に23回の筋力トレーニングを行うことを追加し、推奨しています[1]。このガイドラインの改訂は10年ぶりのことですが、なぜ、筋トレが着目されているのでしょうか? 

実は、筋トレには科学的に証明された多くのメリットがあります。ガイドラインによると、筋トレを継続することで高齢者でも転倒や骨折のリスクが減少することや、心臓病や糖尿病、癌などのリスクを低下することが報告されています。そのほかには、例えば認知機能やアルツハイマーとの関連がある[2]ことや、脳内でセロトニンやドーパミンといった幸せホルモンが分泌されることで気分がスッキリすることなど、複数の報告があります。これらの利点は、健康寿命(健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間)に影響を与えると考えられるので、筋トレを継続することは将来の健康や生活の質(QOL)を向上させることに繋がります。

筋トレをすると筋肉がつきますが、筋肉には筋力と筋量の2つの側面があり、これらは別物です。筋力とは筋もしくは筋群が発揮できる力のこと[3]で、筋量とは筋肉組織の量、つまり重さを指します。一般的に、筋力は2030歳代をピークに以後減少し、50歳代から低下の割合が高くなり、80歳代までに約3050%低下していきます[4]。筋力が20歳代のレベルの25%以下の割合になると、自立した生活が難しくなります[5]。一方、筋量は50歳で何もせず1週間休むと元の筋肉量になるには3週間程度の時間と運動が必要で、70歳ではたった1日動かないと回復するのに1週間必要だと言われています[6]。筋トレの目的は筋力をアップさせることですが、トレーニングによって筋力と筋量の両方にアプローチできます。 

筋力と筋量は、どちらも大切です。筋力は、運動機能低下の指標であり、年齢とともに筋力が低下しても筋量の減少はそれほど大きくないと言われています[7]。つまり、運動機能を維持するためには筋力低下を防ぐことが重要です。一方、筋量はマイオカインと呼ばれる生理活性物質の分泌に関与しています。マイオカインとは骨格筋から分泌される生理活性物質の総称[8]で、例えばイリシンは骨粗鬆症のリスクを低下し[9]、脳由来神経栄養因子(BDNF)は認知機能を改善[10]すること等が分かっています。マイオカインは300種類ほどあり[11]、筋量が増加すると分泌される量も増えます。このように、筋力と筋量はどちらも大切な役割を果たし、筋トレは筋肉量や運動機能の改善に有効な手段となります[12] 

しかし、筋トレの習慣がある人の割合は少なく、上記のガイドラインでは9%29%と報告されています。筋トレをしなくても健康を維持できますが、将来の健康やQOLにつながることから、筋トレの習慣をもつことが推奨されます。そして、効果的に筋力や筋量を増加するためには、食事も重要です。その一例を挙げると、たんぱく質摂取のタイミングです。バランスの良い食事と1日に必要なたんぱく質を摂ることは前提にありますが、筋トレ直後にたんぱく質を摂るのが効果的とされています[13]。また、筋トレ後には、有酸素運動を取り入れることで体脂肪の減少効果が高まります[14]

さあ、健康な未来のために、筋トレにチャレンジしましょう!

  1. 厚生労働省. (2023). “健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023. INFOREMATION1筋力トレーニングについて. https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/001171393.pdf, (2024/07/02最終アクセス) Boyle, P. A.,
  2. Buchman, A. S., Wilson, R. S., Leurgans, S. E., & Bennett, D. A. (2009). Association of muscle strength with the risk of Alzheimer disease and the rate of cognitive decline in community-dwelling older persons. Archives of neurology66(11), 1339-1344.
  3. ジェイ ホフマン. (2011). スポーツ生理学からみたスポーツトレーニング, 大修館書店, P93.
  4.  池添冬芽. (2021). 加齢に伴う運動機能の変化理学療法学48(4), 446-452.
  5. 本間 研一. (2019). 標準生理学第9. 医学書院, P941.
  6. 青木賢樹. “脳神経センター阿賀野病院ブログ”. 年齢と筋肉の萎縮、衰えについて青木賢樹. http://www.agano.or.jp/blog/column/aoki-201803, (2024/07/02最終アクセス)
  7.  むらさき整形外科クリニック, 医学FAQ, サルコペニア(筋肉減弱)筋力と筋量の違いhttps://muraki-seikei.com/post-326/, (最終アクセス2024/07/02)
  8. 眞鍋康子. (2018). マイオカインは運動模倣薬となるか?. YAKUGAKU ZASSHI, 138(10), 1285-1290.
  9. Kornel, A., Den Hartogh, D. J., Klentrou, P., & Tsiani, E. (2021). Role of the myokine irisin on bone homeostasis: review of the current evidence. International journal of molecular sciences, 22(17), 9136.
  10. 桜井良太. (2022). 運動と認知症バイオフィードバック研究49(2), 59-64.
  11. 藤田聡. (2020). 理想のからだに向けた運動と栄養摂取の役割日本香粧品学会誌44(3), 206-206.
  12. 小笠原理紀. (2021). 筋肉から身体を元気にする生物工学会誌99(12), 638-638.
  13. 下村𠮷治. (2023).スポーツと健康の栄養学【第5版】, ナップ, P17-19.
  14.  向本敬洋, ムカイモトタカヒロ. (2020). 筋力トレーニングの適応とその効果 (特集 スポーツと科学). 理大科学フォーラム: 東京理科大学科学教養誌37(3), 16-19.