Habituation:馴れることで平気になる
新奇なものはこわい
みなさんは動物と仲良くするコツを知っていますか? 「ゆっくり近づく」「大きな音や声を立てない」などが動物と関係性を築く時に大切な態度です。 動物がヒトに馴れていなくて、毎回ヒトを見るたびにビックリして怖がっていたら、その動物をお世話することも難しくなってしまいます。動物の取り扱いをしやすくするためには、動物がヒトと接触する機会を増やし、馴致することで改善できます。特に給餌や撫でるなどの接触は、動物の人への恐怖心を減少させ、動物とヒトとの親和関係の構築に貢献することがわかっています。(Hemsworth and Coleman 2011)
馴致(じゅんち)とは、簡単に言うと「馴れさせること」です。少しずつある状態に馴染ませる、その状態が普通だと感じるようにすることです。心理学でよく出てくる馴化(じゅんか)と同じ意味です。馴化とは、反応を誘発する刺激が繰り返し提示されれば、その反応の強度が減少していく現象です。同じ刺激が繰り返し呈示されたとき、反射的な反応が減少し最終的には消失していきます。馴化は重要ではない繰り返し現象を無視する能力を生物に与えます。
動物を用いて心理学実験を実施するためには、パートナーである動物と関係性を築き、動物に実験に協力してもらうことが大切です。特にオペラント学習実験の場合には、ある行動を強化訓練させるプロセスが必要になるので、ヒトや装置に十分に馴れておいてもらう必要があります。その都度、驚愕や緊張、フリージングのような反応が生じていたら、学習が進みません。馴れた実験者、馴れた場所で、学習実験を遂行していきます。
そのためには、まず実験者であるヒトに馴れてもらいます。実験に関わるヒトがハンドリングを行い、動物がヒトに馴れていくようにします。ハンドリングは、小型の動物ならば、動物を手に乗せ体を撫でるなどの接触を行います。この一連の動作は、動物がヒトに馴れる為でもありますが、ヒトが動物に馴れていく過程でもあります。例えば、初めはラットに触るのもおっかなびっくりだった学生が、数回の飼育を通して動物に触れることに怖さがなくなり、動物への愛着も形成されていきます。
霊長類も徐々に馴れる
小型霊長類であるマーモセットというサルがいます。大きさはラットと同じくらいです。霊長類は目がいいので、全く同じ服装をして飼育室に入っても、ヒトの特徴を見分けていて、ヒトを識別しています。そして、ヒトによって態度を変えることもあります。マーモセットに実験をしてもらうためには、飼育室から実験室に移動しなければいけません。その都度、強制的に捕獲していたら、実験室に行くことが嫌になってしまいます。そうならないように、自分から移動用の箱に入ってもらい、箱に入ったら箱ごと実験室に移動させることが必要になります。そしてさらに実験室という部屋に馴れていくプロセスをとります。
みなさんも見ず知らずの集団の中で、急に何かの役割を果たさなければならなくなったら、始めは十分なパフォーマンスが出来ないこともあるでしょう。しかし、そのような状況に馴れてくると、緊張も徐々に解け、自分としての振る舞いが出来るようになってくるのではないでしょうか。苦手な統計分析や英語論文にも段階的に触れることによって、これらの刺激を回避せず、刺激に対する行動の制約が減少していきます。不安の原因になる刺激に段階的に触れることで、不安を消していく治療方法もあります。
苦手なものや新奇な刺激には、焦らず少しずつ慣れていきましょう。多くの刺激に触れていくうちに、新奇な刺激に対しても、対応できる速度があがってくるかもしれません。
ジェームズ・E. メイザー (著), 磯 博行, 坂上 貴之, 川合 伸幸 (翻訳) (2008) メイザーの学習と行動 日本語版第3版 二瓶社
Hemsworth and Coleman (2011). Human-Livestock Interactions. 2nd Edition. Cab Intl