傷つきから人は成長することができる;PTG(心的外傷後成長)②

執筆者:福島 円
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PTGの評価方法

PTGを評価するには、現在よく用いられているのが、「心的外傷後成長尺度(PTGI:Posttraumatic Growth Inventory,Tedeschi & Calhoun, 1996)」です。研究の結果、この尺度は大きく5つの因子(領域)から構成されることがわかっています。

第1の領域は、「他者との関係」にまつわる成長です。他の人とのつながりの中で経験される成長(例えば、手を思いやる気持ちが強くなった、互いにつらいときには相手を頼ってもいいと思うようになった、など)がこの領域の例です。

第2の領域は、その出来事をきっかけに「新たな可能性」が生まれてくるような変化です。それまで描いていた人生の道筋とは異なる方向性を余儀なくされるがゆえに、新しい可能性が開けてくるというものです。

第3の領域は、「人間としての強さ」と呼ばれる領域です。自分を自分自身がどう捉えるかという自己認知のポジティブな変容だといえます。予測し得ないような出来事が自分に起き、それでも今、自分はまだ生きているという現実を踏まえ、自分で思っている以上に自分というのは強い面があると感じることがこの領域のPTGの例です。どん底を経験した人の強さと呼ばれることもあります。

第4の領域は、「精神性的な変容」と呼ばれる領域です。信仰や宗教といったことについてあまり考えたことがなかった人が、それを機に考えるようになることもありえます。人間の存在、または人間の力を超えた現象や事柄に向き合うような変化もあるでしょう。生き方について、魂について、先祖とのつながりについて、死ぬということについて、思いをめぐらせることもまた、この領域のPTGの例です。

最後に第5の領域は「人生に対する感謝」です。当たり前のように今日と変わらない明日がくると思っていた以前の自分とは異なり、平凡な毎日に感謝の気持ちが強く感じられることがあります。 

終わりに

「傷つきから人は成長することができる」。私はこの言葉に勇気をもらえます。傷つきを経験することは、時に人生において避けられない場合もありますが、その経験にもがいたり苦しんだりする中で、人生の意味や他者との結びつきを捉え直し、新たな可能性に開かれ、人として成長することができるというPTGの知見は、人生の次の一歩を進むことを後押ししてくれるように思います。もちろん、全ての方が傷つきからPTGを体験することが望ましいというわけでは決してなく、その方なりのプロセスを大切に尊重する姿勢が重要ですが、プラスもマイナスもひっくるめた人生全体の成長に視点を向けようとするPTGのメッセージを、人に関わる時の引き出しの一つとして持っておきたいと思います。

宅香菜子編著(2016).PTGの可能性と課題 金子書房

Tedeschi, R. G., & Calhoun, L. G. (1996). The Posttraumatic Growth Inventory: Measuring the positive legacy of trauma. Journal of Traumatic Stress, 9, 455-471.