傷つきから人は成長することができる;PTG(心的外傷後成長)➀

執筆者:福島 円
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PTGとは

PTG(Posttraumatic Growth;心的外傷後成長)は、「トラウマティック」な出来事、すなわち心的外傷をもたらすような非常につらく苦しい出来事をきっかけとした人間としてのこころの成長を指します(Tedeschi & Calhoun, 1996)。約20年前にPTGの研究が始まり、用語の認知度は徐々に高まり、研究も増加してきています。危機をきっかけとした人格的な成長というテーマ自体は新しいものではなく、人類の歴史の中で、困難に遭遇したことで成長を経験した人の報告は数多くなされてきました。1990年代、アメリカを中心にこのようなテーマが「PTG」と名付けられたことで、これまでにはなかったような実証研究が積み重ねられるようになりました。このようなテーマが多く表れてきた背景に、それまでの心理学や医学が、人の「問題になっているところ、足りないところ、負の側面」に特に焦点を当ててきた反省がありました。「マイナスの部分を回復すべき」対象として人に注目するのではなく、「プラスに転じる」可能性を兼ね備えている対象として、プラスもマイナスもひっくるめて、人全体の成長・発展を理解しようとする姿勢から生まれてきたテーマです。

一般的に、「トラウマティック」な出来事というと、PTSD症状に深く関連するもの、人によっては幼少期に経験して長らくこころの傷として残るような無意識に抑圧されたトラウマを思い浮かべる人が多いでしょう。しかし、PTGで扱うのは、必ずしも私たちが通常イメージする「トラウマ」とは限りません。例えば、自分が心の底から信頼していた人に裏切られること、資格試験や不合格通知を受け取ること、秘密が暴露されること、家族が障がいをもつこと、などは、狭義のトラウマには含まれませんが、PTGのきっかけにはなりえます。これは、PTGのメカニズムにおいて、出来事がその人の価値観や信じてきたことを揺さぶるような経験となったかどうか、という主観的経験が重要であるとされているためです。出来事が「トラウマティック」かどうかではなく、大きな衝撃を与えるようなものとして経験されたかどうか、人生観が変わるような影響力をもつものとして経験されたかどうかが重要だと考えられています(②へ続く)。

宅香菜子編著(2016).PTGの可能性と課題 金子書房

Tedeschi, R. G., & Calhoun, L. G. (1996). The Posttraumatic Growth Inventory: Measuring the positive legacy of trauma. Journal of Traumatic Stress, 9, 455-471.