赤ちゃんは「影が暗い」とわかるのか②

執筆者:佐藤 夏月
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実験で使用した動画の例(左:自然条件 右:不自然条件)

Checker Shadow錯視が示すような“影とは周囲より照明量が少なく暗い部分である”という前提については、私たちの研究では生後7-8ヵ月頃には既に獲得されていることがわかっています。

私たちの研究では、赤ちゃんは不自然なものを選好すること利用した実験を行いました。まず、ヒヨコがある物体の影を通過するコンピュータグラフィックス(CGs)によるアニメーション動画を作成しました。そして、ヒヨコの表面が「影の中で暗く、影の外で明るくなる」という自然条件と、反対に「影の中で明るく、影の外で暗くなる」という不自然条件を設定しました。実験では、生後5-8ヵ月の赤ちゃんに自然条件、不自然条件を見せ、どちらをより長く見るか(選好するか)を調べました。その結果、生後5-6ヵ月児では各条件を見る時間に差はないものの、生後7-8ヵ月児では、不自然条件をより長く見ることがわかりました。このことから生後7-8ヵ月児は、影を通過する物体の不自然な明るさ変化に気づける、つまり「影は周囲より暗い」という前提を有していることが明らかになりました。


自然な影の動画例

不自然な影の動画例


我々の暮らす世界では光の加減は常に一定でなく、光が遮られて影を落としたり、強く光が当たって白っぽく輝いたりと、物体表面の明暗は多様に変化します。目の前にある物体の明るさが変化するとき、物体自体の属性が変化しているわけではなく、あくまでも光の加減により“見え”が変わっているだけだということを、日常生活の中から自然に学習しているのかもしれません。

Sato, K., Kanazawa S, Yamaguchi MK (2017) Infants' perception of lightness changes related to cast shadows. PLoS ONE 12(3): e0173591; DOI:10.1371/journal.pone.0173591.

Adelson, E. H. (1993). Perceptual organization and the judgment of brightness. Science, 62, 2042-2044.