なぜ、心を測るのか?

執筆者:岡本安晴(元心理学科教員・日本女子大学名誉教授)
Education_Psychology.jpg

 心を測ることについて、2つの観点から考えてみます。1つは、測る必要があるという応用上の理由であり、もう1つは「心を測ることができるのか」という心理学の学問としての位置づけです。

 まず、心を測ることができるのかという問題ですが、これはスチーブンスという人が、心理学が科学であるための必要条件として取り上げました。スチーブンスは20世紀の中頃に活躍した人です。当時、物理学が科学として高く評価され、その基礎は数学であると考えられていました。つまり、数学という言語で物理学が記述されていることが、科学として成功するための条件であるということです。現在も、物理学の本質は数学で表されると考えられています[1]。物理学において重さや長さが数値で表され、それらの関係を表す物理法則が数式で表現されるように、心理学の法則を数学で表すためには、心理学で扱われる概念が数値で表されなければならないと考えられました。心理学概念の簡単なものとして音の大きさなどの感覚がありますが、スチーブンスは、多くの実験結果から、これらの感覚の強さが物理量のべき関数で表されるとしました[2]。対数関数(デシベル)で表されるとするのは、スチーブンスより以前の考え方です。

 心を測る応用上の必要から、適性検査や学力検査など多くの心理測定尺度が開発されています[3]。これらは、当該分野での適性がどの程度であるかの判断や、子供の成長に即した教育環境を考えるための補助資料として使われています。

 「心を測る」というとき、その測定値は体重のようにいろいろな値を取り得ることが想定されていると考えられますが、心理学的概念はこのような連続値からの値を取るものだけではなく、いくつかのクラスからの値を取ると考えられる場合もあります。さらに、行動特性をノードで表し、これらの関係をリンクで繋いで表すネットワーク表現もあります[4]。クラスとかネットワークを用いた分析は、コンピュータソフトウェアとそれを実行するコンピュータの進歩によって実用性が高くなりました。プログラム言語Pythonによるデータ分析の解説書[5]を用意しています。また、心理学的測定の解説書[6]も用意しています。

参考文献

[1]Hossenfelder, S. (2018). Lost in Math. New York: Basic Books.

[2]相場 覚(1977).視覚と聴覚の心理物理学.精密機械, 43, 12, 77–81.

[3]横内 光子(2007).心理測定尺度の基本的理解.日本集中治療医学会雑誌, 14, 4, 555-561.

[4]樫原 潤(2019).精神病理ネットワークの応用可能性――うつ病治療のテイラー化を促進するために――.心理学評論, 62, 2, 143-165.

[5]岡本 安晴(2019).いまさら聞けないPythonでデータ分析.丸善出版.

[6]岡本 安晴(2014).心理学データ分析と測定.勁草書房.