困難な状況からの立ち直りを支えるものーレジリエンス①

執筆者:塩崎尚美
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レジリエンス(Resilience)とは、元々は「変形されたものがもとの形に戻る復元力や弾力性」という意味をもつ言葉ですが、心理学では「人が困難な状況から立ち直る力」、もしくは「立ち直りを支えるもの」として注目されるようになり、「精神的回復力」と訳されるようになりました(小塩, 2021)。

心理学におけるレジリエンス研究のさきがけは、ハワイのカウアイ島で行われた、長期的な追跡調査です(Werner & Smith, 1982, 1992)。この調査は、1950年代に生まれた約700名を対象として行われました。調査の対象となった子どもたちの中には、母親の妊娠中の問題や低体重での出生、貧困など家庭環境の問題のために、発達上高いリスクをもっている子どももいました。しかし、その中のおよそ1/3の子どもは、とても良い適応状態になっていることがわかりました。この報告によって、困難な環境の中で育っても適応的に育つ可能性があること、その要因はいかなるものであるのかについて研究されるようになりました。

レジリエンス研究が進む中で、困難な状況を経験しても適応的に生きられるようになるには、個人が持っている強さやしなやかさといった能力だけではなく、家族の特性や家族を取り巻く社会環境からの影響が、レジリエンスに関与することがわかってきました。

ただ、レジリエンスという概念は多様な用いられ方をしており、個人が元々持っている「能力」という考え方、困難な状況からの回復の過程を指すという考え方、回復した結果を指すという考え方や、回復していくプロセスを指すという考え方があります。ですので、研究者によってレジリエンスという言葉の用い方が異なるということは注意しておく必要があります。また、レジリエンスは困難な状況に置かれてもその影響を受けにくい特性や影響を受けても回復する力のことであり、さまざまな状況に適応的に対処する能力を指すコンピテンスとは異なる概念です。最近、「子どものレジリエンスを高めるために」という教育プログラムも目にすることがありますが、コンピテンスと混同している印象を受けることもあります。また、「打たれ強い力」を身に着けることが子どものレジリエンスを高めるというような意味合いで使われることもありますが、臨床心理学では、レジリエンスは精神的な疾患や発達上ハイリスクとなるような困難な状況に置かれた子どもがそこから「回復」し、適応的に生きられるようになることを指しています(②に続く)。

Luthar, S.S. ; Crosman, E.J.; Small,P.J. (2015) Resiliency and Adversity. From “HANDBOOK OF CHILD PSYCHOLOGY AND DEVELOPMENT SCIENCE Vol.3 

Werner,E.E. & Smith,R. (1982) Vulnerable  but  invincible: A study of resilient children. New York, NY:McGraw-Hill.

Werner,E.E. & Smith,R.(1992) Overcoming the odds: High risk children from birth to adulthood. Ithaca, NY: Cornell University Press.

小塩真司・平野真理・上野雄己(2021)「レジリエンスの心理学:社会をよりよく生きるために」金子書房