困難な状況からの立ち直りを支えるものーレジリエンス②

執筆者:塩崎尚美
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図1:マルチレベル、相互交流システム:子どものレジリエンスを育む上で重要なリスク緩和要因(Luthar, S.S. ; Crosman, E.J.; Small, P. J. Resiliency and Adversity. From “ HANDBOOK OF CHILD PSYCHOLOGY AND DEVELOPMENT SCIENCE Vol.3” p273 Fig7.1を改変)

臨床心理学においては、妊娠期から乳幼児期に困難な状況にあり発達上のリスクがあっても、適応的に育つために何ができるのかということを考えるために、レジリエンスという概念に注目するようになってきました。そして、乳幼児期の環境によってその後の適応が決まるのではなく、その後の養育のサポートや環境調整によって、子どもに問題が生じるリスクが軽減できる可能性について、多くの研究報告がされてきました。

これまでの研究で明らかなってきていることは、

①レジリエンスは関係性に拠っていること

②レジリエンスには多様な相互作用の仕組みが関わっていること

です。子どものレジリエンスを高められるかどうかは、有効なコーピングスキルをその子どもが育むことができるように援助する大人がいるかどうかにかかっています。WernerとSmith(1992)のハワイの研究では、その後の適応が良好だった子どもには、「少なくとも一人は、気質特性や知的能力などとらわれずに無条件に受け入れてくれる人」がいたことが報告されています。このことからは、必要な時に大人がそこにいてくれるという確信が、レジリエンスの重要な要素であることが示唆されます。しかし、養育者が、抑うつ状態や経済的貧困などの理由で、十分な養育をするだけのエネルギーや強さを持ち合わせていない場合には、養育者に変わる大人が存在するか、もしくは養育者のウェルビーイングを高め、養育機能が回復するように支える環境が必要になります。そして、養育者のウェルビーイングに最も強い影響を持つのは、養育者自身が一人の個人として心から受け入れられているという感覚を持てるかどうかです。しかし、一人の養育者を誰かが個人的に支えたり、養育をサポートするだけでは十分とは言えません。近隣や地域社会が必要な時に必要な支援を提供できること、助けを求めれば何らかの支援が得られるという複合的な安心感が必要なのです。

近年のレジリエンス研究は、図のようなマルチレベルの相互交流を視野にいれたモデルに基づく介入が検討されています。親同士の相互支援を引き出し、コミュニティの凝集性を高めるために、その地域の風土や文化に合った支援モデルの構築が目指されるようなっています(図1)。今日の日本、特に都市部では、困難な状況に置かれている子どものことを近隣の人や親戚が何気なく気にかけ、その子を受け入れてくれる関係は自然発生的には起こりにくくなっています。ですから、ある程度意識的にリスクの高い子どもたちのレジリエンスを育むことのできるコミュニティを作っていく必要があります。そういうコミュニティの形成にも、心理学の知見が生かせるようにしていくことが今後の課題です。

Luthar, S.S. ; Crosman, E.J.; Small,P.J. (2015) Resiliency and Adversity. From “HANDBOOK OF CHILD PSYCHOLOGY AND DEVELOPMENT SCIENCE Vol.3 

Werner,E.E. & Smith,R. (1982) Vulnerable  but  invincible: A study of resilient children. New York, NY:McGraw-Hill.

Werner,E.E. & Smith,R.(1992) Overcoming the odds: High risk children from birth to adulthood. Ithaca, NY: Cornell University Press.

小塩真司・平野真理・上野雄己(2021)「レジリエンスの心理学:社会をよりよく生きるために」金子書房