日本女子大学における「心理学」の位置づけ②通性と個性を重んじる教育方針

執筆者:鳥居登志子(元心理学科教員・日本女子大学名誉教授)
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本校の教育方針に改めて注目すると、創立以来、大正4年-8年の日本女子大学校規則には、「女子を人として、婦人として、国民としての3方面より教育するにあり」、と記されていました。ですが、大正9年―12年以降は、「人間として、婦人として、国民として、個人として4方面より教育するを以って方針とす」となり、この姿勢は以後も継承されています。

では、個人としての教育についてどのように説明されていたのでしょうか。「教育とは各個人の特徴に留意して、学術の研究精神を修養する上であらゆる方面の教育を施すと共に、各個人の短所欠点を矯正し、特に各個学生の長所美点を実現せしむるの謂なり。各個人は萬人共有の通性を具ふると共に,…個性の条件錯綜せる結果とも云うべきものなり。(よって)通性の教育の必要なると同時に個性教育も亦欫くべからざる」とあり、通性と個性を共に重視する教育を謳っています。

教育の主義に関しても、日本女子大学校規則(大正4年-8年)には「…3方面に対するの任務を完するための知識を収得すると同時に、自ら博識多能になるよりは寧ろ、事物の真相関係を辯知し、学芸の原則妙理を会得するに必要な智力を錬磨し、他日卒業の後に於いて、萬般の事物問題に接して解釈応用の自在ならんことを期し」と記されており、実証的な思考と応用力の育成が強調されています。以後の校則でも、この姿勢は踏襲されています(文字表記の一部改変と下線は筆者による)。

つまり、学生には事物の真相を深く理解し、その原理の解釈と応用が可能な智力をもつことを期待し、教育の基本としては「通性」と「個性」を重視しています。実験心理学系の必修科目と選択科目の2系列から成る当時の心理学関係の科目構成にも、この教育の基本は反映されているように思われます。

さらにこの趣旨は、人間社会学部心理学科が標榜する、“心理学を支える2本の柱、「基礎心理学」と「人間関係(臨床)心理学」をしっかりと学ぶ”という基本方針に至るまで、脈々と受け継がれていると言えましょう。

日本女子大学成瀬記念館(編) 1988 日本女子大学史資料集:日本女子大学校規則 第5-(1)~(7) 

日本女子大学(編) 2001 日本女子大学学園事典-創立100年の軌跡 ドメス出版