日本の心理療法・カウンセリングの始まりと学生相談
太平洋戦争以前の日本には心理療法といわれるものはほとんど存在しませんでした。わずかに、職業適性検査や知能検査が輸入され、軍隊での配属や特殊教育(当時)における支援の参考にされていた程度でした。精神分析や(日本で生まれた)森田療法もあったのですが、精神医療のごく一部にとどまり、一般には普及していませんでした。
戦後の心理療法・カウンセリングの草分けは、大学の学生相談と初等中等教育の生徒指導と言えます。
日本の学校制度(学制)改革は戦後数年間のうちに、アメリカの指導によって行われました。新制大学は1949年に発足しました。発足に際してはアメリカから教育使節団が派遣され強力に指導しました。その指導の中に学生相談が含まれていました。具体的には1951年から52年にかけて、京都大学、九州大学、東京大学で各3ヶ月間、SPS(Student Personnel Service)・厚生補導の研修会が行われています。その結果、1953年に東京大学と山口大学に学生相談所が開設されています。これが学生相談の始まりです。【1】
日本女子大学の教員3名が、初期の学生補導(学生相談)の研修会に参加していました。そして文学部教育学科に「カウンセリング」の講義が開講されました。さらには1958年に「学生相談室」が開設され1965年に「カウンセリングセンター」に改称されて今に至ります。私立大学としては、最も早くからカウンセリングによる学生相談が行われていたわけです。【2】
日本の大学では、戦前から精神医療に関心を持っていた少数の実践家・研究者と、アメリカから輸入された大学の学生相談に携わった人たちが、大学で臨床心理学の教員になることが多かったのです。彼らを通じて臨床心理学(心理臨床・カウンセリング)の教育が進められました。そして、その教育の元で育った人々が学生相談のカウンセラーの職を経て、次世代の教員となることが多かったのです。現在では、学生相談のキャリアを積んで研究者・教育者になる人以外にも、医療や福祉、スクールカウンセリングなどの分野から大学の教員になる人が増えています。
引用文献
[1] 田中宏尚(2009). 学生相談事始め(序) 熊本県立大学文学部文彩第5号 45-52
[2] 塩崎尚美(2018). 本学カウンセリングセンターの歴史を振り返って カウンセリング・センター報告第42号42-43