大学生はうつっぽい?
「ゆううつに感じる」「家族や友人にはげまされても,気が重い」。
このような言葉を読んで,自分にあてはまる,と感じる人もいるでしょう。
ちなみにこれらの言葉は,一般人におけるうつ病を発見することを目的にNational Institute of Mental Health(NIMH)が開発したCES-Dという尺度(Radloff, 1977)の日本語版(島・鹿野・北村・浅井,1985)の質問項目を一部改変したものです。
この尺度で得点が16点以上だと「うつ病」の可能性が高いという基準が示されています。
しかし,この尺度を首都圏の2つの大学の学生を対象に実施した江口・山口・種市(2017)の研究によると,平均点が20点前後であると示されていました。
CES-Dの基準をそのまま適用すれば,多くの大学生がうつ病に該当する,ということになるわけです。
また,川上ら(2017)は,疫学研究プロジェクトによる面接調査の結果に基づき,精神医学の診断と統計のマニュアルであるDSM-IVの診断基準による大うつ病性障害(いわゆる「うつ病」)の生涯有病率を年齢層別に示しています。
結果は,20-34歲が9.5%,35-44歲が8.9%,45-54歲が7.3%,55-64歲が3.9%,65歲以上が2.5%と示されています。
大学生に限定することは難しいのですが,確かに若年層の有病率は高く示されています。
さて,皆さんなら,こうした研究結果をどう解釈しますか?
ひとつの解釈は,「うつ病に悩まされている大学生が多い」というものでしょう。
本当にそうなのでしょうか?
厚生労働省による患者調査(厚生労働省,2017) を参照すると,実際に精神科を受診している気分障害患者のうち,年齢階級20~24歳が占める数は,他の年齢階級と比べて特別多くはありません。圧倒的に多いのは,65歳以上の年齢階級です。
勿論,この事実に対して,「大学生でうつ病に苦しんでいる人の多くが受診していない」という考え方もあります。
ここでもう一つ,CES-Dを使用した報告を紹介します。こちらの報告は厚生労働省が平成12年に実施した調査に含まれているものです。この調査は,無作為抽出した12歳以上の世帯員を対象に,3万2022名から有効回答を得ています。
この調査報告を紹介した坂本・大野(2005)によると,CES-Dの平均値は,15~19歳級で15点を下回っており,20~24歳級ではおよそ14点でした。これは,江口・山口・種市(2017)の結果と比べてずいぶん低い得点です。
また,川上ら(2017)は,当該調査について「調査は関東地方に限定した調査であり、かつ回収率が高くないため回答者が偏った可能性がある」と述べています。
つまり,サンプリングの問題で,異なる結果が得られている可能性が考えられます。
ちなみに私は,授業の一環で,ここ3年ほど,CES-Dを使用して調査していますが,毎年平均値は15点台です。
データに基づいて考えると,いろいろな解釈可能性がでてきます。
是非,心理学を学ぶ人々には,自分でデータを読み込む力を身につけてもらいたいと思っています。
- Radloff, L, S.(1977). The CES-D scale: A self-report depression scale for research in the general population. Applied Psychological Measurement, 1, 385-401.
- 島悟・鹿野達男・北村俊則・浅井昌弘(1985). 新しい抑うつ性自己評価尺度について 精神医学,27,717-723.
- 江口慧・山口一・種市康太郎(2017). 大学生のソーシャルスキルと家族機能および抑うつとの関連 桜美林大学心理学研究,8,19-32.
- 厚生労働省(2017). 平成29年患者調査,https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/10-20.html
- 川上憲人・立森久照・竹島正(2017).精神疾患の有病率等に関する大規模疫学調査研究:世界精神保健日本調査セカンド,厚生労働科学研究成果データベース,https://mhlw-grants.niph.go.jp/project/22776,および https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/2013/133081/201317070A/201317070A0002.pdf
