ナルシシストは本当に「自分が大好き」?

執筆者:川﨑直樹
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 「自分はすごいんだ」「もっと注目して褒めてほしい」「自分が正しいのにどうしてわからないんだ!」といった、自己中心的で尊大な行動をとる人は「ナルシシスト」と呼ばれます(※話し言葉では「ナルシスト」になることも多いですが原語はnarcissistです)。上から目線での物言いや、最近では「マウントをとる」と表現されるような言動も、ナルシシストの特徴の一つと言えるでしょう。

 彼ら/彼女らは、自分の有能性や優位性をアピールする言動が強いがゆえに、周囲からは「自分が大好きな人」「自信に満ちた人」と見られがちです。そして実際の心理学の調査結果でも、この予測が、ある程度、当たっていることが実証されています。尊大なナルシシスト傾向を測定する質問紙チェックリストがいくつか開発されていますが、その点数が高い人ほど、「自分は価値がある」と回答する傾向があることがたくさんの研究で示されています。

 しかし一方で、不可解な疑問も残ります。彼ら/彼女らが、そんなに自信があって満たされている人間であるならば、どうしてわざわざ「自分はすごいんだ」というアピールをし続ける必要があるのでしょうか。十分な賞賛や地位を得たとしても、まるでコップに穴でも開いているかのように、「足るを知る」ということがなく、際限なく賞賛や優越性を求め続けてしまうのはなぜなのでしょうか。

 心理学者が提起している一つの仮説は「ナルシシストは、本当は、自分が大好きな人ではなく、自分を好きになれない人である」というものです。私たちは、意識や言葉のレベルで持っている態度と、無意識や感情のレベルで持っている態度というのは食い違うものです。尊大なナルシシストの場合、意識や言葉のレベルでは「自分はすごい」と思っていても、心の奥底の感情的・感覚的な部分では「自分はダメな奴だ」「愛されない人間だ」と否定的にとらえている、という説明ができるかもしれません。これは「否定的な自分」を「肯定的な自分」で覆い隠す(マスクする)という意味で、「マスク・モデル」ともいわれる仮説です。

 ただし、この仮説を検証するのは難しいということもお分かりかと思います。「無意識の自己評価」を測定する、というのは、心理学者がずっと取り組んできた難しい課題の一つです。いくつかの手法が提案されていく中、2000年代にかけては、潜在的連合テストという手法を中心に検討が進められました。この潜在的連合テストというのは、「自分」という言葉と「良い」「悪い」という言葉の結びつきの強さを、「言葉の分類を素早く行う」というパソコン上の課題で測定するものです(このテストをWEB上で体験できるサイトもあるので検索してみてください)。この潜在的連合テストを用いて、2000年代にいくつかの論文が出版され[1,2]、さきほどの「マスク・モデル」は実証されたかに思われました。

しかし2008年に、「出版されるに至らなかったデータ」も含めて全体的に分析する研究(メタ分析)が行われました。その結果、実験結果はかなりバラバラであり、マスク・モデルが実証されたと結論付けるのは時期尚早、ということがわかりました[3]。

 このマスク・モデルは、ナルシシストの心の中の矛盾や葛藤を描く、魅力的な仮説です。臨床心理学や精神分析学など、実践的な理論ともよく整合します。しかし、客観的な実験や調査データを用いてこれを検証することは、なかなか簡単ではない、ということがよくわかります。現在でも、潜在的連合テストやその亜型となる手法が様々に提案されています。また、「マスク」という発想以外で、ナルシシストの矛盾した生き方を説明しようとする議論も続いています。

 ナルシシストは、どうしても「嫌われ者」として論じられることが多い存在です。しかし一方で、我々すべての人間の心の中には、ナルシシティックな部分がある、ということも事実です。ナルシシズムの問題を、公平かつ客観的な視点で理解することは、私たちが他者に対して寛容に接するうえでも、自分に対して寛容な目を向けるうえでも、役に立つことかもしれません。

参考文献

Jordan, C. H., Spencer, S. J., Zanna, M. P., Hoshino-Browne, E., & Correll, J. (2003). Secure and Defensive High Self-Esteem. Journal of Personality and Social Psychology, 85, 969–978. doi:10.1037/0022-3514.85.5.969

Zeigler-Hill, V. (2006). Discrepancies Between Implicit and Explicit Self-Esteem: Implications for Narcissism and Self-Esteem Instability. Journal of Personality, 74(1), 119–144. doi:10.1111/j.1467-6494.2005.00371.

Bosson, J. K., Lakey, C. E., Campbell, W. K., Zeigler-Hill, V., Jordan, C. H., & Kernis, M. H. (2008). Untangling the Links between Narcissism and Self-esteem: A Theoretical and Empirical Review. Social and Personality Psychology Compass, 2, 1415–1439. doi:10.1111/j.1751-9004.2008.00089.x