貧困は自己責任か 欠乏と認知能力②

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途上国の貧しい農家を対象とした研究があります。専業の農家では、収入は収穫期にまとめて入りますが、次の収穫までは、そのときの収入のみでやりくりをしなければなりません。必然的に、経済的に余裕のある時期(収穫直後)と苦しい時期(収穫前)ができます。この研究では、このことを利用して、2つの時期で、同じ人の認知能力を比較しています。その結果、収穫前の経済的に苦しい時期には、認知能力が低下していることが明らかになりました。

貧困状態にいる人々は、常に経済的な資源の欠乏に晒されています。来月の家賃をどうしようか。子どもの学費は。明日の食費の心配をしなければならないかもしれない。このような状態では、とにかく目の前の金銭的問題を解決することに集中してしまい、それ以外のことを考える能力が下がってしまいます。ちょっと周囲を見渡せば、状況を変える方法もあるかもしれないし、助けの手も借りられるかもしれなくても、トンネルの中にいる当人には見えなくなってしまうのです。このような状況に陥ってしまえば、貧困状態から抜け出すのはいっそう困難になります。貧困から脱するためには、このような状態からいったん脱して、「一息つける」環境を作ることが絶対に欠かせないのです。セーフティ・ネットの重要性は、心理学的にも正当化できると言えるでしょう。

Mani, A., Mullainathan, S., Shafir, E., & Zhao, J. (2013). Poverty impedes cognitive function. Science, 341(6149), 976-980.

ムッライナタン & シャフィール. (2015). いつも「時間がない」あなたに:欠乏の行動経済学 早川書房