マスクがこどもの発達に与える影響を考える②

執筆者:麦谷綾子( 教員ページへ
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透明フェイスシールドはむしろ、こどもたちのことばの聞き取りをしづらくしてしまうかもしれない。その理由としては、透明フェイスシールドには光の反射や屈折、映り込みがあり、それがこどもの知覚を混乱させてことばの聞き取りを阻害した可能性が論文内で指摘されています。

透明フェイスシールドだからこそ口元が見えてよいだろうという大人のロジックは、こどもにとっては必ずしも当てはまらないわけで、この研究結果からも、赤ちゃんやこどもの認識世界を大人が理解することの難しさを感じます。大人が思い描く「赤ちゃんの世界」はあくまで大人の見方、聞き方、感じ方、知識のフィルタを通した大人の解釈であり、推測の域を出ないのです。だからこそ、実際に赤ちゃんやこどもに直接尋ねてみること、もちろんことばで尋ねるのは難しいので客観的な計測手法で乳幼児の反応を調べることが大切です。

国際赤ちゃん学会の研究発信ブログでは、保育時間のように限られた時間の中での大人の不織布マスクの着用が乳幼児の言語発達に与える影響は、あまり大きく見積もらなくてもよいだろうという提言がなされています。一方で、表情(≒感情・情動)の伝達という意味でも口元が担う役割は大きいです。みんながマスクをして過ごしていることが、大人はともかく、豊かな仲間関係を通じて社会性を構築する過程の途上にあるこどもたち、特に保育園・幼稚園や小学校低学年のこども同士のコミュニケーションに与える影響も気になるところです。とはいえ、感情や情動は、目の動きや声色、ボディーランゲージにも多く含まれることを考えると、「マスクと発達」の関係を正しく把握することは、一筋縄ではいかない奥の深いテーマです。

Singh, L., Tan, A., & Quinn, P. C. (2021). Infants recognize words spoken through opaque masks but not through clear masks. Developmental Science.  https://doi.org/10.1111/desc.13117

Curtin, S., Werker, J., & Yeung, H. Face-mask use and language development: Should I be worried? The Baby Blog: The International Congress of Infant Studies (ICIS), https://infantstudies.org/face-mask-use-and-language-development-should-i-be-worried/