色彩知覚と色名の習得③-先天盲開眼者MMによる色名呼称の自発的発生順序

執筆者:鳥居登志子(元心理学科教員・日本女子大学名誉教授)
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色の知覚が可能になる過程で、色彩表現はどのように変化するのでしょうか?ここでは、先天盲開眼者(註1)MMの例を紹介します。

彼女は生後10ヶ月ごろ、角膜軟化症のため右眼は光覚、左眼は視力ゼロとなり、12歳で右眼に虹彩切除術の手術を受けた症例です。手術後6日目に眼帯を外すと「眩しい」と言い、「明るさはわかるけれど、色はわからない」と答えました。手術後2週間目に明るい部屋で30cmほど手前から小型のペンライトで弱い光をかざすと「光はわかる」と報告。手術1カ月後には、暗室の壁面にスライド映写機から照射された光の明領域を指で確定できることが確認されました(鳥居・望月,1992)。

そこで、赤と緑の色光による色弁別実験を導入し、その後、台紙の中央に貼った円形の赤・緑・青・黒など多種類の色紙による色彩の弁別と識別課題を継続した結果、約2年をかけて90%の正答率を示すまでに至りました。その過程で、当初は、色彩表現に際して具体名詞の色名への転用(私のカバンの色、レモンの色など)することもありましたが、次第に抽象名詞である色名も自発的に用いるように変化しました。

下の図は、その色名を初出の日付順に記したものです(鳥居・望月,1992; 2000)。黄を含まず、ミズイロと金属名(金,銀)が加わるなどの違いはありますが,それらを除くと、Berlin らによる基本色名に相当する基本色名は出揃っており、出現順序にもある程度の共通性を認めることができます。

参考文献

鳥居修晃・望月登志子 (1992)  視知覚の形成1=開眼手術後の定位と弁別=.培風館.

鳥居修晃・望月登志子 (2000) 開眼者の視覚世界.東京大学出版会.

註1 出生時既に失明状態にあった場合、あるいは生後数年以内に失明した早期失明者を先天盲と称することが多い。先天盲が、先天性白内障や生後早期の角膜疾患などの手術を受けて、光覚以上の視覚を得た場合を先天盲開眼者と表現している。