色彩知覚と色名の習得②-言語の進化に伴う基本色名の増加順序

執筆者:鳥居登志子(元心理学科教員・日本女子大学名誉教授)
色鮮やかなパプリカ(ぱくたそ).jpg

Berlinらは、98におよぶ言語系の調査参加者に基本となる色彩語を報告してもらい、次に329枚のマンセル色票から成るボード上でそれら基本色彩語彙(以下、基本色名:註1)に相当する色票を指示してもらいました。その結果、基本色彩語とその増加に関しては、2つの知見を得ています。つまり、

1.色彩内容を分類する基本カテゴリーとそれを符号化する基本色名は,全体として11個の基本色名で表象されるひとつの普遍集合を形成しており、

2. 各言語は進化の程度に応じて、その普遍集合の一部を、裾わけするかたちで保有している。

下の図は11個の基本色名から成る普遍集合と進化の順序性(矢印)を示しており、基本色名の増加様式には半順序性に従った厳しい制約のあることを読み取ることができます。

つまり,いずれの言語もwhiteと blackに相当する2個の基本色名を保有しており(第1段階)、3種の色名をもつ言語(第2段階)ではそれら2個にredが加わります。第3段階と第4段階ではさらにgreen もしくはyellowがそれらに加わりますが、green とyellowの加わる順位は同格とされ、第4段階ではGreenとyellowの両色名を持ちます。そこにblueが加わるのが第5段階、第6段階ではさらにbrownが加わり、第7段階では4色名(purple,pink,orange,grey:各色名の順位は同格)の中、どれか1色、あるいは2色か3色、または4色すべてが加わるという増加順序を辿ります。日本語および英語をはじめとする近代語の基本色名は11種です。

勿論、各言語が持ち合わせている色名の数は、知覚できなる色彩の数を意味するものではなく、色認識の言語による確認と表現の様式を意味しているのです。後続研究においても、基本色名の増加を支える言語進化的な普遍的連続性に関する訂正はなされていません。

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参考文献 

Berlin,B. & Kay,P. (1969)  Basic Color Terms: Their Universality and Evolution. University of California Press.

註1. 基本色名が満たすべき4条件は、1)単一語彙素であり(例えばblue-greenは含まれない)、2)他の色彩範疇に含有されず(例:redに含まれるscarletは除外)、3)適応範囲が限定されていない(例:頭髪の色彩にのみ使用されるblondは除外)。そして、4)当該言語の使用者にとって心理学的顕在性が高く、聞かれてすぐに思いつく語(例:叔母の車についた錆の色、などは除外)である。