多感覚心理学 ある日の授業風景

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こんにちは、多感覚心理学のある日の授業風景をご紹介します。

心理学の教科書では、一般に、「視覚」が取り上げられることが多いのですが、多感覚心理学の講義では、「聴覚」や「触覚」など視覚以外の感覚や、感覚間の相互作用などについても扱っています。

    

この日のテーマは、「多感覚的な質感知覚」でした。

   

授業では、まず二つの透明な球を見ていただきました。

「どちらが水晶でどちらがプラスティックでしょう?まずは見た目だけで判断してください。」

(写真はイメージで実際のものとは異なります)

受講生のみなさんたちからは、「え?!どっちがどっちなのかわからない…(笑)」という驚きの声が上がります。実は見た目(視覚)だけで物体の材質を当てるのはなかなかに難しいのです。

次に、水晶とプラスティックの球を自由に触ったり持ち上げたりしていただきました。そうすると「あ、こっちが水晶!」とすぐに声が上がりました。触って冷たく感じる方、持ち上げて重い方が水晶です。

このように私たちは、物体の材質感を、見た目だけではなく、触り心地など複数の感覚の情報を使って多感覚的に知覚しています。

     

次に、音によって見た目の材質感が変わる、というデモを行いました。

こちらは透明な物体を叩くという動画なのですが、見た目は全く同じ物体なのに、叩いてる音が変わると、材質が変わって感じられます。下の動画からデモが体験できますので、良かったらこのブログを読んでくださっているみなさまもぜひ体験してみてください。見た目は同じでも音が変わることによって、ガラスに見えたり、プラスティックやゴムのように見えたりすると思います。

(デモ出典:Fujisaki et al. (2014), Journal of Vision)

      

続いて、音による質感変容つながりで、「肌が羊皮紙になったような錯覚 (Parchment-skin illusion)(Jousmäki & Hari, 1998)をご紹介しました。日本では羊皮紙があまりなじみがないので、手がカサカサに感じられる錯覚、といったほうがわかりやすいかもしれません。こちらは、自分の両手をこする音を、イコライザーで加工して、高い周波数成分を強くして、リアルタイムにヘッドフォンからフィードバックすると、自分の手がカサカサに乾いたように感じられという錯覚です。こちらのデモは、教室の前方に装置を置いて、授業の最後の方に時間をとって自由に体験していただきました。体験した学生さん達からは本当に手がカサカサになったようで、ハンドクリーム欲しくなります!といった感想が寄せられました。

     

続いて、食べ物の食感が音で変わるという話をご紹介しました。

まずご紹介したのは、Oxford大学のグループが発表したソニックチップ(ポテトチップス錯覚、 Zampini & Spence, 2004)です。

さきほどの「肌が羊皮紙になる錯覚」に似ているのですが、こちらは、ポテトチップスを齧るパリッという音をマイクで拾って、高い周波数成分を増強して、その音をヘッドフォンからポテトチップスを齧っている本人にフィードバックすると、ポテトチップスがよりパリパリに、新鮮に感じられるようになるという錯覚です。

こちらのデモは、ポテトチップスの音を様々に加工した音をManaba(授業支援システム)にアップし、受講生のみなさんには、その音に合わせて、何か湿気たポテトチップスに似たものをご自宅で齧っていただき、食感が変わって感じられるかどうかを試していただきました。フライドポテトやぬれ煎餅、パンの耳、わざと湿気させたポテトチップス、クッキー、唐揚げなど、みなさんいろいろな食材を試してくださったようで、音による食感の変化を楽しんでいただけたようでした。

     

最後に、ソニックチップの進化系の1つである、咀嚼筋電音フィードバックによる介護食の食感改善の研究をご紹介し、デモ動画をご覧いただきました。(Endo, Ino & Fujisaki, 2016)

こちらの研究については、朝日新聞GLOBE+の記事で紹介いただきましたので、よろしければぜひ、以下の記事もご覧ください。

音で食事が変わる 介護食に歯ごたえ、ビール美味しく 日本の「音の調味料」研究:朝日新聞GLOBE+ (asahi.com)

また、以下の心理学コラムでも易しい解説をしています。

音による食感の錯覚①
音による食感の錯覚②

多感覚心理学の受講生のみなさんの感想(抜粋)です

  • デモが多くて、体験しながら学ぶことができるので、毎度楽しく学ぶことができています!

  • プラスチックと水晶は見た目ではほとんど分からないのに、持ってみると驚くほど違っていてびっくりしました!

  • 音で物体の材質感が変わる、というデモを見て、見た目は透明なガラスのようなものなのに、パプリカを叩く音と組み合わせるとそれがゴムのように柔らかいものに感じて、人間の感覚の面白さを感じました。

  • 肌が羊皮紙になる錯覚も、周波数によって全然感じ方が違って面白かったです。

  • ポテトチップスの錯覚をぬれ煎餅で試して見たのですが、耳と歯で感じる感覚が違って思わず笑ってしまいました。ぬれ煎餅にも固くてサクサクしている部分が一応あるのですが、心無しかその部分が多いように感じられて楽しかったです。

  • 咀嚼筋電音フィードバックでは咬筋の筋電波形を音へ変換して、自身の咀嚼と同期するように開発されていて驚きました。介護食などはあまり楽しく食事できる印象が無いので、音によって楽しめる人が増えたらいいと思いました。

文献

  • Fujisaki,  Goda,  Motoyoshi, Komatsu, and Nishida (2014). Audiovisual integration in the human perception of materials. Journal of Vision, 14(4), Article 12. https://doi.org/10.1167/14.4.12

  • Jousmäki, and Hari (1998). Parchment-skin illusion: sound-biased touch, Curr. Biol. 8,R190.

  • Zampini and Spence (2004), The Role of Auditory Cues in Modulating the Perceived Crispness and Staleness of Potato Chips, Journal of Sensory Studies, vol. 19, October ,  pp. 347-63.

  • Endo, Ino and Fujisaki (2016), The effect of a crunchy pseudo-chewing sound on perceived texture of softened foods, Physiol. Behav., 167, 324-331.