比較発達心理学のある日の授業風景:動物の錯視研究
ハトはヒトと逆の錯視を見る!? ―「見えている世界」はひとつではない―
この授業では、「動物には世界がどのように見えているのか?」という視点から、人間にとって「見る」とはどういうことなのかを考えます。
私たちは普段、目に入った情報をそのまま見ているように感じています。しかし実際には、脳が情報を処理し、解釈した結果を「見ている」のです。
そのため、実際の物理的な世界と、私たちが感じる世界との間にズレが生じます。こうした現象が「錯視」として立ち現れてきます。
今回は、錯視をテーマに、ハトとヒトの視覚の違いを比較しました。
エビングハウス錯視
中央の円の大きさを左右で見比べてみてください(図1)。
![]()
実は、中央の2つの円はまったく同じ大きさです。
それでも、多くの人には左の円のほうが大きく見えるのではないでしょうか。
これは、大きな円に囲まれると中央の円が小さく見え、小さな円に囲まれると大きく見えるためです。
つまり、私たちは周囲との関係を手がかりに、大きさを判断していると考えられます。
ハトは「逆」の錯視を見る?
ところが、ハトに同じ図形を見せると、ヒトとは逆の反応を示すことがわかっています(中村, 2013)。
では、なぜハトには「逆」に見えるのでしょうか?
実は、人間でも周囲の円の外側を隠すと(図2左)、錯視の方向が逆転し、ハトと同じような見え方になることがあります(後藤・田中, 2005)。
![]()
このことから、ハトは図形全体ではなく、「部分」に注目して中央の円を見ている可能性があると考えられています。
一方で、ヒトは中央の円だけを見ようとしても、周囲の情報を完全には無視できません。私たちは、無意識のうちに図形の「全体」に注目して物を見ているといえます。
このように、動物と比較することで、「当たり前」だと思っていた人間の見え方の特徴が見えてきます。
同じものを見ていても、「どのように見るか」は生き物によって異なります。
それぞれの動物が暮らしてきた環境に合わせて、異なる“世界の見方”を進化させてきたのです。
引用文献
後藤倬男・田中平八(2005). 錯視の科学ハンドブック. 東京大学出版会.
中村哲之(2013). 動物の錯視:トリの眼から考える認知の進化. 京都大学学術出版会.
関連記事
