比較発達心理学 ある日の授業風景
この授業では、心の進化や発達を探り、心がどのようにして現在のような形になったのかを理解することを目指しています。今日は「なぜヒトは“カラフルな視覚”を進化させたのか?」をテーマに学びます。
色を感じるしくみ
私たちは目に入る光を網膜の視細胞で感じています。色を感じるのは錐体細胞で、ヒトは3種類の錐体細胞を持つため、3色型色覚と呼ばれます。
豊かな色覚を持つのはヒトだけ?
昼行性の霊長類(ヒトやチンパンジーなど)は3色型色覚ですが、夜行性の霊長類や多くの哺乳類(イヌやネコなど)は2色型色覚です。でも、鳥や爬虫類、魚はもっと多くの種類の錐体細胞を持っていて、ヒトだけが特に豊かな色覚を持つわけではありません(河村, 2009)。
なぜ3色型の色覚を進化させたのか?
3色型色覚が進化した理由はいくつかあります。例えば、果物や若葉を見分けるのに役立ったからとか(Allen , 1879; Osorio & Vorobyev , 1996)、仲間の顔色を読み取るのに便利だったからなどの説があります(Changizi, et al., 2006)。
3色型色覚はいつも有利?
実は、3色型色覚がいつも有利とは限りません。中南米にすむオマキザルは3色型と2色型が混在しています。研究によると、暗い場所では2色型の方が3色型よりも昆虫を見つけやすいことが分かっています。2色型の色覚は明るさの違いに敏感で、カムフラージュを見破るのが得意です(Melin et al., 2007)。
2色型が有利な場合も
ヒトでも、色を使わないタスクでは2色型色覚が有利なことがあります。例えば、パターンの違いを見つける場合、2色型の方が3色型よりもすばやく見つけられることがあります。色は無視してパターンの違いを見つける場合でも、3色型色覚者はどうしても色に頼ってしまうためです。
授業の感想より:
- 2色型色覚より3色型色覚の方が有利であると思っていたため、2色型色覚の方が有利な場面があると知り驚いた。
- それぞれに適応的な意義があるからこそ、オマキザルには複数の型が混在されているのかなと感じる。混在していることでオマキザルの生存確率は上がるのではないかと考えた。
- 動物の感覚や知覚にはそれぞれ違いがありますが、どちらが優れていてどちらが劣っていると一概にいえるものではなく、それぞれの良さがあることを知りました。
「我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか」は、フランスの画家ポール・ゴーギャンが1897年から1898年にかけて描いた絵画のタイトルですが、心の進化や発達をめぐる冒険がおもしろいのは、ゴーギャンのこの問い挑むことができるからではないでしょうか。
引用文献
Allen, G. (1879). The colour-sense: Its origin and development. An essay in comparative psychology (Vol. 10). Boston, Houghton.
Changizi, M. A., Zhang, Q., & Shimojo, S. (2006). Bare skin, blood and the evolution of primate colour vision. Biology letters, 2(2), 217-221.
河村正二. (2009). 錐体オプシン遺伝子と色覚の進化多様性: 魚類と霊長類に注目して. 比較生理生化学, 26(3), 110-116.
Melin, A. D., Fedigan, L. M., Hiramatsu, C., Sendall, C. L., & Kawamura, S. (2007). Effects of colour vision phenotype on insect capture by a free-ranging population of white-faced capuchins, Cebus capucinus. Animal Behaviour, 73(1), 205-214.
Vorobyev, M., & Osorio, D. (1998). Receptor noise as a determinant of colour thresholds. Proceedings of the Royal Society of London. Series B: Biological Sciences, 265(1394), 351-358.