社会・集団・家族心理学Ⅰ  ある日の授業風景

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 社会心理学とは、私たちが日々の生活の中で出会う個人・集団に対して何を考え、何を感じ、どう振る舞うかについて、また私たちの思考・感情・行動がそうした個人・集団によってどのような影響を受けるかについて、科学的に研究する学問だとされています(Principles of Social Psychology, 2015 edition)。社会・集団・家族心理学Ⅰは、主にこうした社会心理学領域の知見を、初学者向けに解説する授業です。

 この授業のある回では「自己」について扱いました。社会心理学で「自己」は重要なテーマで、自分自身をどのような人間だと捉えるか、自分に対してどんな気持ちを抱くかによって、どんなその人の心の状態や起こしやすい社会行動が変わるとされています。

 

 例えば皆さんは、場面や状況によって異なる考え方・感じ方をしている自分に気づくことはないでしょうか?「学生としての自分」は真面目であるが、「末っ子としての自分」は甘えん坊である、「テニス選手としての自分」は1つのことに熱心であるなど、基本的な自分らしさは損なわないまでも、強調される自分の特徴が場面や状況によって異なることは、多くの人が経験をしていることかと思います。これを「自己の多様性」と呼びます。

 

 このようにいろいろな自分の側面を持つことは、一見するとどれが本当の自分がわからないといった不安や悩みを引き起こすように思えるかも知れません。しかし、ある程度異なる自分を持つことは、1つの自己の側面が脅威にさらされた時の「退避場」を提供するとされています。

例えば、テニスで大きな失敗をして挫折を味わったとしましょう。もし自己の多様性がなく「テニス選手としての自分」がほとんど唯一の自分だったとしたら、この挫折は極めて大きなダメージとなり、精神的健康を損なってしまうかもしれません。一方で、もし自己に多様性あれば、挫折によって「テニス選手としての自分」に肯定的な感情を持てなくなったとしても、その影響は「学生としての自分」に及びにくくなります。結果的に、精神的健康は低くなりすぎずに済むかもしれません。

こうした自己の多様性のストレスに対する効果は、様々な研究で示されています(Linville, 1987; McConnell et al., 2005)。日本においても、自己の多様性の高さと人生満足感や主観的幸福感の高さ、そして抑うつ傾向の低さとの関連が報告されています(川人・大塚, 2011)。

 その他にも、様々な社会心理学のテーマ(説得、同調、対人認知、差別や偏見、集団パフォーマンスなど)を扱っていますので、興味があればぜひ社会・集団・家族心理学Ⅰを受講してみてください。

 


 

引用文献

  •  Linville, P. W. (1987). Self-complexity as a cognitive buffer against stress-related illness and depression. Journal of Personality and Social Psychology, 52(4), 663–676.
  •  川人 潤子・大塚 泰正 (2011). 大学生の肯定的自己複雑性と満足感,幸福感および抑うつとの関連の検討 パーソナリティ研究, 20(2), 138–140.
  •  McConnell, A. R., Renaud, J. M., Dean, K. K., Green, S. P., Lamoreaux, M. J., Hall, C. E., & Rydel, R. J. (2005). Whose self is it anyway? Self-aspect control moderates the relation between self-complexity and well-being. Journal of Experimental Social Psychology, 41(1), 1–18.
  •  Principles of Social Psychology (2015). University of Minnesota Libraries Publishing. ISBN: 978-1-946135-20-9, https://open.umn.edu/opentextbooks/textbooks/principles-of-social-psychology