応用心理学 ある日の授業風景

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応用心理学は、お金や経済に関する心理学について勉強している、講義形式の科目です。応用心理学の土台となっている学問分野は行動経済学です。行動経済学と心理学には非常に密接な関係があります。行動経済学は、従来の経済学の理論が前提とする「経済的に合理的に振る舞う人間」を前提とはしていません。実際の人々は、お金に関する判断をするときに、感情やバイアスに左右され予想外の選択や非合理的な判断をすることがあります。そこで行動経済学では、心理学の知見を取り入れ、人々の心理が経済的選択にどのように影響を与えるかに焦点を当てます。

この日の授業では、ダニエル・カーネマンとエイモス・トヴェルスキーによる「プロスペクト理論」(Kahneman & Tversky, 1979)を学びました。カーネマンは視覚や記憶の研究で有名な認知心理学者ですが、プロスペクト理論を打ち立てたことにより、ノーベル経済学賞を受賞しています。プロスペクト理論により、さまざまな状況下において人々がどのような意思決定をするか、とくにお金が関係している時にどのように振る舞うかを説明することができます。

たとえば、200円と250円の牛乳パックが並んでいたとしましょう。皆さんは、その50円という違いを気にしますか?私なら、50円安いに方に心ひかれて、そちらを買ってしまうかもしれません。洋服を買う場合はどうでしょうか? 1万円と150円という二つの服が候補にのぼったとき、皆さんはこの50円の違いを気にするでしょうか?「私は絶対50円安い方の服を買う!」という人はあまりいないように思います。でもこれは、よく考えると不思議なことです。なぜなら、50円稼ぐために必要な労力は、牛乳を買うためであろうが服を買うためであろうが、あるいは貯金するためであろうが、全く変わらないからです。いつでも同じ価値を持つはずの50円が、牛乳を買うときには意味を持つ一方で、1万円の服を買うときには意味をもたなくなるという非合理性は、人間のお金に対する捉え方の特性なのです。プロスペクト理論は、こうした人間の心理を説明するために、たくさんの心理学的実験の結果に基づいて作られました。とてもよく練られた実験ですので、卒業研究のために自分で実験を計画したい場合、参考になるでしょう。実際に私のゼミでも、お金の心理学に関する実験を行って卒論を書く学生もいます。

 

引用文献

D. Kahneman & A. Tversky (1979) Prospect theory: An analysis of decision under risk. Econometrica, 47, 2, 263-292.